Googleは2021年6月から「ページエクスペリエンス」を検索ランキングの正式な評価指標として導入し、ユーザー体験の質を重視する姿勢を明確にしました。しかし、多くのサイト運営者やマーケターは「ページエクスペリエンスとは具体的に何を指すのか」「どのように改善すればSEO効果が得られるのか」という疑問を抱えています。
そこで本記事では、ページエクスペリエンスの基本概念から具体的な改善方法、さらには売上やコンバージョン率向上につながる実践的なアプローチまでを、最新の事例を交えながら徹底解説します。技術的な知識がない方でも理解できるよう、専門用語は丁寧に説明しながら、明日から実践できる改善策をお伝えします。
記事執筆者:認定SEOコンサルタント 三田健司
ページエクスペリエンスの定義と重要性

ページエクスペリエンスとは、ウェブページのコンテンツの質に加えて、ユーザーがページを利用する際の快適さや使いやすさを総合的に評価する指標です。つまり、コンテンツの質だけでなく、「どれだけ快適にそのコンテンツにアクセスし、利用できるか」という観点から、ウェブページの品質を測定します。
具体的には、ページの読み込み速度、操作への反応性、視覚的な安定性、モバイルでの使いやすさ、セキュリティなど、ユーザーが「このサイトは使いやすい」と感じる要素全般を包括的に評価します。
Google のコア ランキング システムは、優れたページ エクスペリエンスを提供するコンテンツを高く評価するように設計されています。
なぜGoogleはページエクスペリエンスを重視するのか
Googleの使命は「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」です。この理念に基づき、単に関連性の高い情報を提供するだけでなく、その情報に快適にアクセスできることも同様に重要だと考えています。
実際、Googleの調査によると、ページの読み込みに3秒以上かかると53%のモバイルユーザーがサイトを離脱することが判明しています。このような統計データは、ユーザー体験の質が検索エンジンの価値に直結することを示しています。
ページエクスペリエンスがビジネスに与える影響
ページエクスペリエンスの改善は、単なるSEO対策を超えて、実際のビジネス成果に大きな影響を与えます。
改善項目 | ビジネスへの影響 | 実例データ |
---|---|---|
ページ読み込み速度 | コンバージョン率向上 | 1秒短縮で7%向上(Amazon調査) |
モバイル最適化 | 滞在時間の増加 | 平均70%増加 |
視覚的安定性 | カート放棄率の低下 | 15%減少 |
セキュリティ強化 | 信頼性向上 | 購入意欲が43%向上 |
ページエクスペリエンスを構成する主要要素

ページエクスペリエンスは、複数の技術的要素から構成されています。各要素は独立して評価されますが、総合的なユーザー体験の向上には、すべての要素をバランスよく改善することが重要です。
1. Core Web Vitals(コアウェブバイタル)
Core Web Vitalsは、ページエクスペリエンスの中核を成す3つの指標です。これらは実際のユーザーデータに基づいて測定され、リアルな体験品質を反映します。
LCP(Largest Contentful Paint)- 読み込みパフォーマンス
LCPは、ページを開いてから最も大きなコンテンツ(メインの画像やヘッダー文字など)が表示されるまでの時間を測定します。例えば、ニュースサイトならメイン記事の画像、ECサイトなら商品の写真が表示されるまでの時間です。良好な基準は2.5秒以内とされており、これを超えるとユーザーは「遅い」「重い」と感じてページを離れてしまう可能性が高まります。改善策としては、画像のファイルサイズを小さくする、CDN(世界中にサーバーを配置して近い場所から配信する仕組み)を使う、不要なコードを削除するなどが効果的です。
INP(Interaction to Next Paint)- インタラクティブ性
INPは、ユーザーがボタンをクリックしたり、メニューを開いたり、フォームに入力したりした際に、画面が反応するまでの時間を測定します。例えば、「カートに追加」ボタンをクリックしてから、ボタンの色が変わったり「追加しました」という表示が出るまでの時間です。良好な基準は200ミリ秒以内とされており、この時間を超えると「遅い」「重い」と感じ始めます。改善策としては、JavaScriptの実行最適化、長いタスクの分割、メインスレッドの負荷軽減などが効果的です。
CLS(Cumulative Layout Shift)- 視覚的安定性
CLSは、ページを読み込んでいる最中に、文字や画像が突然動いて、間違えてクリックしてしまうような現象を防ぐための指標です。例えば、記事を読んでいる途中で突然広告が表示されて文章がずれたり、画像が遅れて表示されることで下の内容が押し下げられたりする現象です。良好な基準は0.1以下(スコア)とされており、これは画面に対するずれの割合を表す数値で、小さいほど安定していることを意味します。改善方法としては、画像には必ず高さと幅を指定する、広告スペースをあらかじめ確保しておく、新しいコンテンツは既存コンテンツの上ではなく下に追加するなどがあります。
2. モバイルフレンドリー
Googleの調査では、検索の70%以上がモバイルデバイスから行われており、モバイル対応は必須要件となっています。評価のポイントは、レスポンシブデザインの実装、タップターゲットの適切なサイズ(最小48×48ピクセル)、横スクロールの排除、読みやすいフォントサイズ(最小16px推奨)などです。
3. HTTPSセキュリティ
HTTPSプロトコルによる暗号化通信の実装は、ユーザーの個人情報保護とサイトの信頼性確保に不可欠です。データの暗号化により情報漏洩を防ぎ、なりすましサイトからユーザーを保護します。また、ブラウザでの「保護されていない通信」警告を回避することで、ユーザーの不安を取り除きます。
4. 煩わしいインタースティシャル広告の排除
全画面広告やポップアップなど、コンテンツへのアクセスを妨げる要素は、ユーザー体験を著しく損ないます。ただし、法的義務(年齢確認、Cookieの使用など)、ログインダイアログ(非公開コンテンツ)、画面の合理的な範囲内のバナーなどは許容されます。
ページエクスペリエンスの測定と分析

効果的な改善を行うためには、現状を正確に把握することが不可欠です。主要な測定ツールとその特徴を理解し、適切に活用しましょう。
主要な測定ツールと活用方法
Googleサーチコンソールは、ページエクスペリエンスの総合的な状況を把握できる公式ツールです。「ページエクスペリエンス」レポートで全体像を確認し、「ウェブに関する主な指標」で問題のあるURLを特定、「モバイルユーザビリティ」でモバイル関連の問題を確認できます。改善後の効果も時系列で追跡可能です。
PageSpeed Insightsは、個別ページの詳細な技術分析と具体的な改善提案を提供します。ラボデータ(シミュレーション環境)とフィールドデータ(実際のユーザーデータ)の両方を確認でき、提供される改善提案の優先順位に従って効率的に対策を実施できます。
Chrome DevToolsに統合されたLighthouseは、開発者向けのより技術的な分析ツールです。パフォーマンス、アクセシビリティ、ベストプラクティス、SEO、PWA対応など、多角的な診断が可能です。
実践的な改善方法とケーススタディ

理論的な理解だけでなく、実際にどのように改善を進めるかが重要です。ここでは、具体的な改善手法と成功事例を紹介します。
ケーススタディ1:ECサイトの表示速度改善
ある商品画像の多いECサイトでは、LCPが5.2秒と基準を大きく超過していました。この課題に対して、画像の遅延読み込み(Lazy Loading)実装、WebP形式への画像変換、CDNの導入と最適化、Critical CSSの実装という4つの改善策を実施しました。
その結果、LCPは5.2秒から2.1秒へと59.6%改善し、直帰率は45%から32%へ28.9%改善しました。さらに、コンバージョン率は2.3%から3.1%へ34.8%向上し、月間売上は約25%増加するという大きな成果を得ることができました。
ケーススタディ2:メディアサイトのCLS改善
広告やソーシャルメディアの埋め込みによりCLSが0.25と不良だったメディアサイトでは、広告スペースの事前確保(min-height設定)、フォントの事前読み込み(font-display: swap)、動的コンテンツの挿入位置の最適化、アスペクト比の明示的な指定という改善策を実施しました。
これにより、CLSは0.25から0.08へ68%改善し、ページビュー/セッションは2.3から3.1へ34.8%向上しました。また、ビューアビリティの向上により広告収益も15%増加するという副次的な効果も得られました。
効果的な改善の進め方
すべての要素を一度に改善しようとすると、リソースが分散し効果が見えにくくなります。まず1-2週間で画像の最適化と圧縮、不要なJavaScriptの削除、ブラウザキャッシュの設定など、すぐに着手できる基本改善から始めます。
次に3-4週間かけてCDN(世界中にサーバーを配置して近い場所から配信する仕組み)の導入、サーバーの応答速度改善、データベースの検索処理の高速化などを行います。最後に1-2ヶ月で、サイトの基本的な作り方の見直し、ページの表示方法の改善、アプリのような動作をするウェブサイト(PWA)への対応検討など、より大規模な改善に取り組むという段階的アプローチが効果的です。
ユーザー調査を活用した改善戦略

技術的な指標の改善だけでなく、実際のユーザーの声を反映することで、より効果的な改善が可能になります。
ユーザーフィードバックの収集と活用
ヒートマップツールの活用では、HotjarやClarityなどのツールで視覚的に分析し、クリックやスクロールのパターンから問題点を発見できます。セッション録画機能を使えば、実際の操作を確認することも可能です。
アンケート調査では、ページ離脱時の簡単なアンケートやNPS調査(「このサイトを友人に勧めたいですか?」を0-10点で評価してもらう満足度調査)を実施し、具体的な改善要望を収集します。また、A/Bテストによる検証で、改善案の効果を定量的に測定し、ユーザーセグメント別の最適化を行い、継続的な改善サイクルを確立します。
改善の優先順位を決める考え方
収集したデータをもとに、どの問題から解決すべきか優先順位を決める際は、以下の4つの視点で判断します。
1. どれくらいの人に影響があるか 多くのユーザーが困っている問題なら、優先的に改善します。例:全ユーザーの80%が経験する問題 vs 5%だけが経験する問題
2. どれくらい深刻な問題か 売上や顧客満足度への影響が大きい問題から対応します。例:購入完了できない問題 vs 文字が少し見にくい問題
3. 改善にかかる手間とコスト 必要な時間・人員・費用を考慮し、効果と費用のバランスを見ます。例:1日で修正可能 vs 3ヶ月かかる大規模改修
4. 改善したらどれくらい良くなるか 予想される成果が大きいものを優先します。例:売上20%向上が見込める vs 2%程度の改善
例えば、「カートに入れるボタンが見つけにくい」という問題は、多くのユーザーに影響があり(1番目:高)、売上に直結し(2番目:高)、ボタンのサイズ変更で簡単に改善でき(3番目:低コスト)、購入率の向上が期待できる(4番目:高)ため、最優先で対応すべき問題となります。
SEOとコンバージョンの相乗効果

ページエクスペリエンスの改善は、検索順位の向上だけでなく、実際のビジネス成果にも直結します。
検索順位向上のメカニズム
Googleは、ページエクスペリエンスを「ランキングシグナル」の一つとして使用しています。ただし、コンテンツの関連性や品質が最も重要であることに変わりはありません。ランキングへの影響度は、コンテンツの質が最重要で60-70%、ページエクスペリエンスが重要で15-20%、その他の要因が補助的で10-25%程度と考えられています。
ページエクスペリエンスの改善により、HTTPSによる安全性の可視化と快適な操作性による信頼感の醸成でユーザーの信頼を獲得し、ストレスフリーな閲覧体験と目的の情報への素早いアクセスでユーザビリティが向上します。さらに、読み込み時間短縮による機会損失の防止と視覚的安定性による誤クリックの減少により、離脱率を低下させ、結果的にコンバージョン率の向上につながります。
最新トレンドと今後の展望
ページエクスペリエンスの評価基準は継続的に進化しています。最新の動向を把握し、将来を見据えた対策を行うことが重要です。
2025年の最新動向と今後の方向性
Googleは定期的にアルゴリズムを更新し、ユーザー体験の評価方法を改善しています。注目すべき変更点として、INP(Interaction to Next Paint)の正式採用検討、AI技術を活用したユーザー行動分析の強化、クロスデバイス体験の評価導入などがあります。
今後は、音声検索への対応、AR/VR体験の評価基準、アクセシビリティの重要性増大など、より包括的な体験評価が進むでしょう。また、ユーザー行動の即時反映、地域や時間帯別の最適化、パーソナライズされた体験評価などリアルタイムデータの活用も進展します。さらに、エネルギー効率の評価、データ転送量の最適化、グリーンウェブの推進など、持続可能性への配慮も重要なテーマとなっています。
まとめ:ページエクスペリエンス改善の実践ロードマップ
ページエクスペリエンスの改善は、一朝一夕には達成できません。しかし、体系的なアプローチと継続的な取り組みにより、必ず成果を出すことができます。
改善実施のチェックリスト
初期段階(1ヶ月目)では、現状分析ツールの導入と基準値の測定、簡単な改善策(画像最適化、キャッシュ設定)の実施、チーム内での知識共有とKPI設定を行います。
中期段階(2-3ヶ月目)では、技術的な改善(CDN導入、コード最適化)の実施、ユーザーフィードバックシステムの構築、A/Bテストによる改善効果の検証を進めます。
継続段階(4ヶ月目以降)では、定期的なモニタリングと改善サイクルの確立、新技術やトレンドへの対応、ビジネス成果との相関分析を継続的に行います。
成功のための重要ポイント
ページエクスペリエンスの改善で成功するためには、以下の4つの重要ポイントを常に意識することが重要です:
- ユーザー中心の思考:技術的な指標の改善は手段であり、目的は優れたユーザー体験の提供
- 継続的な改善:一度の改善で満足せず、常により良い体験を追求
- 数値やデータを重視した判断:感覚ではなく、実際のデータに基づいて判断
- 組織全体での取り組み:開発チームだけでなく、マーケティングや経営層も巻き込んだ改善
ページエクスペリエンスの改善は、SEO効果だけでなく、ユーザー満足度の向上、コンバージョン率の改善、そして最終的には売上増加につながる重要な投資です。本記事で紹介した手法を参考に、自社サイトの改善に取り組んでみてください。継続的な努力により、必ず成果は現れるはずです。

記事執筆・株式会社アクセス・リンク 代表取締役
Webサイト制作歴10年以上の経験を元にSEOコンサルティングを行い、延べ1,000件以上のサポート実績を誇ります。個人事業主や中小企業向けのホームページ制作やSEOコンサルティングを得意としています。
(社)全日本SEO協会 認定SEOコンサルタント
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