2025年9月、Googleは日本国内で「AIモード」という革新的な検索機能の提供をスタートしました。これは単なる新機能の追加ではありません。検索という行為そのものを根本から変える可能性を秘めた、まさに検索の進化形と言えるでしょう。
今回、このAIモードを開発した中心人物であるGoogle検索の製品担当副社長、ロビー・スタイン(Robby Stein)氏が、人気YouTube番組「Inside Google’s AI Turnaround(Lenny’s Podcast)」に出演し、80分以上にわたって開発の舞台裏や今後の展望について語りました。
本記事では、そのインタビュー内容をもとに、AIモードがどのように誕生したのか、そしてこれからのSEO対策にどのような影響を与えるのかを、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
記事執筆者:認定SEOコンサルタント 三田健司
ロビー・スタイン氏とは?元Instagram責任者がGoogle検索を変革
ロビー・スタイン氏は、もともとInstagramでプロダクト責任者を務めていた人物です。「ストーリーズ」や「リール」といった、今では当たり前になっている機能を生み出し、世界中のSNSの使い方を大きく変えた実績を持っています。
そんな彼がGoogleに移籍し、検索という領域で新たな挑戦を始めました。SNSで培った「ユーザー体験を革新する」という姿勢が、今回のAIモード開発にも活かされているのです。
「Googleは終わった」という声に対する明確な答え
ChatGPTやPerplexityといったAI検索ツールが登場したとき、多くの人が「もうGoogleの時代は終わりだ」と言いました。しかし、スタイン氏はインタビューの冒頭で、この見方を明確に否定しています。
「Google検索は決して終わっていません。人々は今も、電話番号を調べるとき、値段を比較するとき、道順を確認するときなど、あらゆる場面で検索を使い続けています」
彼の主張はシンプルです。AIは検索を置き換えるものではなく、検索をより便利にするための道具だということ。実際、AIの登場によって人々の「知りたい」という気持ちがより強くなり、検索の利用がむしろ増えているというデータもあるそうです。
Google社内で起きた大きな変化
ChatGPTの登場後、Google内部では大きな変革が起こったとスタイン氏は語ります。研究部門(DeepMindなど)と製品開発チームの連携が強化され、これまでにないスピード感で新機能を次々とリリースできる体制が整ったのです。
「多くの人は、Googleが突然変わったと思うかもしれません。でも実際は、毎日少しずつ改善を積み重ねてきた結果が、ある日突然花開いただけなのです」
この「日々の改善の積み重ね」という考え方は、私たちSEO担当者にとっても非常に参考になる視点ではないでしょうか。
AIモードとは?検索が「会話」に生まれ変わる
では、AIモードとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
従来の検索は「キーワードを入力して、表示された結果から自分で探す」というスタイルでした。一方、AIモードは「会話をしながら、一緒に答えを見つけていく」という全く新しい検索体験を提供します。
例えば、こんな使い方ができます:
- 「今週末、子どもと一緒に行ける東京の無料イベントを探して」と入力
- AIが複数のサイトから情報を集めて、開催場所・時間・口コミなどを整理して提示
- 「雨でも楽しめる場所に変更して」と追加で質問
- 条件に合わせて結果を更新
このように、まるで知識豊富な友人と会話するように、自然な言葉で質問を続けられるのがAIモードの最大の特徴です。
「AIによる概要」との違いは何か
Googleには「AIによる概要」という機能もあります。これは検索結果の上部にAIが生成した要約を表示するものですが、AIモードとは役割が異なります。
スタイン氏の説明によると:
- AIによる概要:シンプルな質問にすぐ答えを出す「入口」
- AIモード:複雑な条件や深い疑問に対して会話しながら答えを探す「対話型」
つまり、質問の深さや複雑さに応じて、Googleが最適な形で答えを提供する仕組みになっているのです。
AIモードの裏側:Query Fanout(クエリ・ファンアウト)という技術
ここからは、AIモードがどのように動いているのか、その仕組みについて解説します。初心者の方には少し難しく感じるかもしれませんが、これを理解することでSEO対策の方向性が見えてきます。
AIは「自分で検索する」ことで答えを作る
多くの人は「AIが自分の知識から直接答えを作っている」と思いがちです。しかし実際は違います。GoogleのAIは、質問を受け取ると、その裏側で自動的に複数の検索を実行しているのです。
スタイン氏の言葉を借りれば:
「AIは質問の背後で、関連する検索を数十回も自動的に行います。つまりAI自身が『Google検索を使って調査している』ようなものなのです」
この仕組みを「Query Fanout(クエリ・ファンアウト)」と呼びます。
Query Fanoutをわかりやすく説明
Query Fanoutとは、1つの質問を処理するために、内部で複数の関連検索を同時に実行する技術のことです。
具体例で説明しましょう。あなたが「おすすめのSEOツールを教えて」と質問したとします。すると、AIは裏側で以下のような検索を同時に実行します:
- 「SEO比較 2025」
- 「中小企業向けSEOツール」
- 「無料で使えるSEOツール」
- 「SEOツール 評判」
そして、それぞれの検索結果を統合し、最も信頼できる情報を選んで回答を作るのです。
重要:AIが参照するのは「検索上位のサイト」
ここで最も重要なポイントがあります。
AIが回答を作る際、Googleの通常の検索アルゴリズムを使って情報を集めています。つまり、従来の検索で上位表示されているサイトが、AIにも選ばれやすいということです。
スタイン氏もこう明言しています:
「AIが生成する回答には、Googleのスパム検知システムや、E-E-A-T(専門性・経験・権威性・信頼性)といった評価基準が使われています。つまり、AIが引用する情報も、これまでと同じ基準で選ばれているのです」
これは、従来のSEO対策が今後も重要であることを意味する、非常に大きなメッセージです。
マルチモーダル検索:「見る」「撮る」「話す」で検索が変わる
AIモードのもう一つの大きな特徴が、「マルチモーダル検索」です。これは、テキストだけでなく、画像・音声・動画でも検索できる機能のことです。
Googleレンズとの連携
例えば、スマートフォンで壊れた部品を撮影して「これをどう修理すればいい?」と質問すると、AIが画像を認識し、修理方法を動画や図解付きで教えてくれます。
実際、Googleレンズを使った視覚検索は前年比70%増という驚異的な成長を見せており、月間約120億回も利用されているそうです。
そして、レンズで検索した後、そのままAIモードに切り替えて「この製品をもっと安く買える場所は?」「似たデザインの別ブランドはある?」といった追加質問を会話形式で続けられるのです。
SEO担当者が考えるべきこと
この変化は、私たちSEO担当者に新しい課題を投げかけています。今後は:
- 画像のalt属性(代替テキスト)の最適化
- 画像周辺のテキストの充実
- 動画コンテンツの説明文の強化
といった対策も、従来以上に重要になってくるでしょう。
AEO・GEOという新概念に対するGoogleの見解
AI検索の登場により、SEO業界では「AEO(Answer Engine Optimization)」や「GEO(Generative Engine Optimization)」といった新しい言葉が注目されています。
これらは「検索エンジン向けの最適化」ではなく、「AIに引用されるための最適化」という考え方です。
Googleが示した明確な方針
インタビュアーが「AEOやGEOの時代に、サイト運営者は何をすべきか?」と質問したところ、スタイン氏は明確に答えました:
「AIが回答を作るときも、裏側ではGoogle検索を使っています。つまり、品質評価ガイドライン(Search Quality Rater Guidelines)で定めている『良質な情報』の基準は何も変わりません」
Googleが20年以上かけて築き上げてきた「高品質コンテンツとは何か」という定義は、AI時代になっても変わらないということです。
具体的には:
- ユーザーの疑問にしっかり答えているか
- 情報の出典が明確か
- 独自性のある内容か
- 信頼できる情報源か
これらの基本は、今後も変わらず重要だとスタイン氏は強調しています。
E-E-A-Tの重要性:Googleが評価する4つの要素
スタイン氏が言及した「E-E-A-T」について、もう少し詳しく説明しましょう。E-E-A-Tとは、Googleが2022年12月に追加した評価基準で、以下の4つの要素から成り立っています:
- Experience(経験):実際に経験した人が書いているか
- Expertise(専門性):その分野の専門知識を持っているか
- Authoritativeness(権威性):その分野で権威と認められているか
- Trustworthiness(信頼性):情報源として信頼できるか
Googleの公式ガイドラインでも、これらの要素を満たすコンテンツ作成が推奨されています。特に、YMYL(Your Money or Your Life)と呼ばれる、人々の健康・財産・安全に関わるトピックでは、E-E-A-Tの評価基準が厳しく適用されます。
AIモード誕生の裏話:きっかけはユーザーの小さな行動
実は、AIモードの開発は壮大な計画から始まったわけではありませんでした。きっかけは、あるユーザーの行動だったそうです。
検索キーワードに「AI」を付け始めたユーザー
スタイン氏によると、「AIによる概要」を導入した後、面白い現象が起きたといいます。
「一部のユーザーが、検索クエリの最後に『AI』という単語を付けて検索するようになったのです。これは『もっと賢く答えてほしい』というサインでした」
この小さな発見が、AIモード開発のきっかけになりました。
わずか5〜10人のチームから始まった
最初のAIモード開発チームは、わずか5〜10人の小規模なものでした。初期のプロトタイプは不安定で、うまく動かないことも多かったそうです。
しかし、ある時「魔法の瞬間」が訪れたとスタイン氏は振り返ります:
「週末に子どもと遊ぶ場所をAIに相談したとき、地図情報、営業時間、天気予報、口コミなどを一度にまとめて提案してくれました。その瞬間、『これが未来の検索だ』と確信したのです」
社員とその家族から始まったテスト
この感動体験をもとに、GoogleはAIモードを正式プロジェクトとして立ち上げます。まずは社員とその家族だけが使える「Trusted Tester」版から始まり、フィードバックを集めながら改良を重ねました。
そして2024年、「Google Labs」を通じて一般公開。わずか1年足らずで、世界中で使われる中心機能へと成長したのです。
「今のGoogleは『考えてから動く』のではなく、『動きながら考える』組織に変わりました。AIモードはその象徴です」とスタイン氏は語っています。
AI時代のSEO対策:二段階の選考を突破する
では、私たちサイト運営者は、このAI時代にどのような対策をすべきなのでしょうか。
AIに選ばれるまでの「二段階選考」を理解する
スタイン氏のインタビューから、重要な事実が明らかになりました。AIに引用されるまでには、実は二つの段階があるのです:
第一段階:従来の検索で上位表示される
まず、通常のGoogle検索で上位に表示される必要があります。これは従来型SEOの領域です。
第二段階:AIによる選別
検索上位に入ったサイトの中から、AIが最も信頼できる情報を選んで引用します。
つまり、第一段階をクリアできなければ、AIがあなたのサイトを見つけることすらできないのです。
従来のSEOがますます重要になる理由
この二段階構造から分かるのは、従来のSEO対策の重要性がむしろ高まっているということです。
AI時代だからといって、新しい対策だけを考えればいいわけではありません。まずは基本となるSEO対策をしっかり行うことが、AI検索で選ばれるための必須条件なのです。
これからのウェブサイト運営者がやるべき5つのこと
スタイン氏のインタビュー内容を踏まえ、今後のサイト運営で特に重要になるポイントを5つにまとめました。
1. 質問と回答を明確に設計する
AIは「どんな質問にどう答えるか」を重視します。FAQ形式やQ&A構造のコンテンツを充実させ、AIが答えを見つけやすい形に整理しましょう。
例:
- 「〇〇とは?」「〇〇の方法は?」といった明確な見出しを使う
- 各セクションで一つの疑問に対する明確な答えを提供する
2. 根拠となる情報を必ず示す
Googleは「引用できる信頼性」を重視しています。データや統計を示すときは、必ず出典を明記しましょう。
「〇〇によると…」「△△の調査では…」といった形で、情報源を明確にすることが大切です。
3. 独自の視点と専門性を出す
AIは情報の重複を嫌います。他のサイトと同じことを書くだけでは選ばれません。
- 実際に試してみた体験
- 独自の分析や考察
- 現場でしか得られないデータ
こうしたオリジナリティが、AIに選ばれる鍵になります。
4. 画像や動画も最適化する
AIモードはマルチモーダル対応です。テキストだけでなく、画像や動画の最適化も忘れずに:
- 画像にはわかりやすいalt属性(代替テキスト)を付ける
- 画像周辺のテキストで内容を説明する
- 動画には詳しい説明文を添える
Backlinkoの調査によると、Googleレンズの検索結果の約3分の1は、ページ上部に配置された画像から得られているそうです。
5. 構造化された文章を書く
AIが内容を理解しやすいよう、文章の構造を整えましょう:
- 見出しタグ(h2、h3)を適切に使う
- 段落を論理的に構成する
- 箇条書きを効果的に活用する
これにより、AIがあなたのコンテンツから情報を抽出しやすくなります。
まとめ:基本を極めることがAI時代の最強戦略
ロビー・スタイン氏のインタビューから見えてきたのは、Googleが「AIで検索を置き換える」のではなく、「AIによって検索をより便利に進化させる」という明確な方向性です。
そして最も重要なのは、AIモードの裏側では、今までと同じGoogle検索が動いているという事実です。
AI時代のSEO対策は、決して未知の世界ではありません。むしろ、これまでの基本をより正確に、より深く実践することが求められています。
新しい技術に目を奪われがちですが、まず大切なのは:
- 高品質でオリジナルなコンテンツを作る
- ページ構造を整理する
- 専門性・信頼性・権威性(E-E-A-T)を高める
- スマートフォン対応や表示速度を最適化する
こうした従来からのSEO基本対策を、手を抜かずにしっかり行うこと。これこそが、AIに選ばれるサイトへの最短距離なのです。
AIモードは確かに検索体験を大きく変えつつあります。しかし、その中身を作っているのは、私たちが日々公開しているウェブコンテンツです。
結局のところ、AIに選ばれるためには「人に選ばれる良い情報」を積み重ねるしかありません。その意味で、AI時代のSEOは、これまで以上に「本質的な価値」が問われる時代だと言えるでしょう。
検索上位を目指すことは、AIモードに引用されるための第一条件であり、合格への入口です。基本を極め、ユーザーに本当に役立つコンテンツを作り続けること――これがAI時代を生き抜く、最も確実な戦略なのです。
参考資料:さらに詳しく学びたい方へ
本記事の作成にあたり、以下の公式資料を参考にしました。より詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください:
- Inside Google’s AI Turnaround – Lenny’s Podcast(YouTube) – ロビー・スタイン氏の完全インタビュー動画
- Search Quality Rater Guidelines(PDF) – Googleの品質評価ガイドライン公式文書
- Our latest update to the quality rater guidelines – E-E-A-Tに関するGoogle公式ブログ
- Creating Helpful, Reliable, People-First Content – 役立つコンテンツ作成のGoogle公式ガイド
- Google’s Robby Stein on AI Mode, GEO, and the future of Search – Search Engine Landによる詳細レポート

記事執筆・株式会社アクセス・リンク 代表取締役
Webサイト制作歴10年以上の経験を元にSEOコンサルティングを行い、延べ1,000件以上のサポート実績を誇ります。個人事業主や中小企業向けのホームページ制作やSEOコンサルティングを得意としています。
(社)全日本SEO協会 認定SEOコンサルタント
コメント